レッスン 1: 水平直線飛行


航空機が空を飛ぶしくみ

私たちが日常なんらかの機械をそのしくみをろくに理解していないまま、使っていることはよくありますよね。

私がまだ若く独身だったころ、両親から誕生日のプレゼントに電気掃除機をもらったことがありました。数か月後、母が電話をかけてきて、「あの掃除機の紙パック、ちゃんと取り替えているの?」とたずねました。私はわけがわからず聞き返しました。「紙パックって? それ、いったい何の話?」

掃除機の内部には交換しなくちゃならない紙パックが存在しているなんて、当時の私には知る由もなかったのです。

技術的な細かいことを知らずにすんでいるのは、確かにありがたい面もありますが、空を飛んでいるときにはそうはいきません。パイロットになるために航空力学の博士号を取る必要はありませんが、航空機が空を飛ぶしくみについてある程度きちんと理解しておくことは、決して損にはなりませんし、いざというときに命拾いすることもあるかもしれません。ですから、フライング レッスンではこの初回の授業に最も時間をかけています。といっても、読み終えるころには目玉を取り替えたくなるほど延々と続くというわけではありませんので、ご安心ください。ただし、この授業は最後までひととおり読んでくださいね。航空機を操縦するには、最初に知識を、少なくともある程度の情報は詰め込む必要があるのです。この授業からすべてが始まります。まずは通読してください。そして楽しんでください。先行投資のようなものですが、その先には大きなお楽しみが待っているのですから。

4 つのフォース (力) と共にあれ

“four forces (4 つの力)” といっても、1960 年代のロック グループの名前ではありません。これは、飛行中の航空機を押したり引いたりする力のことです。4 つの力とは、揚力、重力、推力、および抗力のことで、飛行中の航空機には常に加えられている力です。図 1-1 に、これら 4 つの力の働きを示します。

図 1-1: 飛行中の航空機には 4 つの力が働きます。
1 は揚力、2 は推力、3 は重力、4 は抗力です。

もちろん、図のような大きな矢印が実際に航空機から出ているわけではありません。いくら星条旗がああいうデザインだからといって、実際米国の各州が青と赤に彩られていて、州境には線が引かれているというわけじゃありませんからね。これらの矢印は、いわば非常に難しい新競技、そう、4 方向からの綱引きのような力の拮抗を示しているのです。この 4 つの力のバランスをとるために、あらゆる能力を駆使するのがパイロットの役割です。では、これら 4 つの力について説明していきましょう。

揚力

揚力は、航空機の翼が空中を移動するときに生じる、上方向へ作用する力です。前方への移動によって、翼の上面と下面で圧力にわずかな差が生じます。この圧力の差によって揚力が生じるのです。揚力は、航空機を空中にとどめる力です。

私が揚力の働きを発見したのは、4 歳。初めて教会へ行ったときでした。献金皿が回って来て、思わずそこからぴかぴかのコインを数枚くすねた私は、祖父に教会中追いかけまわされる羽目になりました。幼心に「教会って楽しいじゃん!」と思いましたね。結局、祖父は私のセーターをつかんで床から 4 フィートほど宙に持ち上げると、私を教会の外へつまみ出しました。つまり、祖父の腕から私の体重に相当する揚力が生じて、私は瞬間的に宙に浮いたわけです。航空機の翼は、このときの祖父の腕と同じ働きをします。揚力を生み、航空機を空中に浮かせるのです。

重力

重力とは、下向きに作用する力です。4 つの力のうちでは、航空機に何を積むかによってパイロットがある程度まではコントロールできる、唯一のものです。燃料の燃焼以外、フライト中に航空機の重量は変えられません。まさか空中で貨物を燃やしたり、追加の乗客を乗せたり (あるいは降ろしたり) するわけにはいきませんからね。飛行中に突然乗客を降ろすのは連邦航空局 (FAA) の規則に違反しますから、そのような行為はくれぐれも慎んでください。

定速で水平直線飛行をしている航空機では (航空機の速度と飛行方向が一定の場合)、相反する力である揚力と重力は、均衡状態にあります。

推力と抗力

推力とは、エンジン回転式プロペラによって生じる前方に作用する力です。ほとんどの場合、エンジンが大きければ大きいほど、つまり馬力が大きければ大きいほど生じる推力も大きくなり、航空機はある程度まではより速く飛行できます。前方への移動では、常に抗力と呼ばれる航空力学的な反作用の力が生じます。抗力によって、航空機は後方へ引っ張られます。抗力とは、運動する物体に対する大気中の分子の抵抗力です。 パイロットやエンジニアがあまり使いたがらない簡単な言葉で言うと、つまり風の抵抗力です。自然界において苦労せずに得られるものはほとんどありません。

推力によって航空機は加速しますが、その最高速度は抗力によって決まります。航空機の速度が上がるにつれて、抗力も大きくなります。自然界のこのひねくれた法則によって、航空機の速度を 2 倍に上げると、抗力は 4 倍にもなるのです。最終的には、抗力により後方へ引き戻される力とエンジンの推力が等しくなった時点で、速度が一定になります。

私が高校時代に乗っていたフォルクス ワーゲン ビートルは、この限界をよくよく自覚していました。車が前進する速度は、エンジンのサイズによって決まります。4 気筒のエンジン (一度に 3 気筒しか動作しませんでしたが) を搭載した私のビートルは、時速 65 マイルより速くは走れませんでした。図 1-2 は、この速度において、最大推力と抗力によって後方へ引き戻される力との均衡がとれた場合の結果を示しています。

図 1-2: 自動車の推力 (1) は、エンジン出力によって生じます。
抗力 (2) は、大気中の分子の抵抗によって生じます。

低速の場合は抗力も小さいため、速度を維持するのにかかる推力は少なくて済みます。車が最高速度に満たない速度で前進している場合は、余分な推力 (馬力) を、追い越しのための加速など、他の用途に回すことができるわけです。

同じことが航空機にも当てはまります。水平飛行時に最大速度に満たない速度で飛行している場合は、出力 (推力) に余裕があるので、その余った推力を使って、最も重要な操作の 1 つである上昇を行うことができます。

では、そろそろこの辺で航空機の飛行制御装置についてお話ししましょう。

飛行制御装置

お待たせしました。ここから、いよいよ飛行制御装置の話です。図 1-3 は、航空機の重心を通る 3 つの想像上の軸を示しています。

図 1-3: 航空機の 3 つの軸
1- 垂直軸 (ヨー)、2- 前後軸 (ロール)、3- 左右軸 (ピッチ)

飛行制御装置によって、航空機の機体をこれらの軸のうちの 1 つ、またはそれ以上を中心に回転させることができます。前後軸は、航空機の機首から尾部へ伸びる中心線に沿った軸です。 航空機は前後軸を中心にロール、つまりバンクします。 前後軸の方向は、航空機の機首から尾部への方向 (前後方向) と覚えるとよいでしょう。

左右軸は、航空機の翼端から翼端まで伸びる横方向の軸です。左右軸を中心とした航空機の回転を “ピッチ” といいます。

垂直軸は、航空機のコックピットを通って腹部へと垂直方向に伸びる軸です。垂直軸を中心とした航空機の回転を “ヨー” といいます。

次に、これら 3 つの軸を中心に航空機を回転させるための、3 つの主な飛行制御装置について説明します。

エルロン

エルロンとは、主翼の外側後縁部にある可動翼面です。エルロンは、旋回する方向に航空機をバンクさせるための装置です。図 1-4 に示すように操縦輪を右に回すと、同時にエルロンは反対の方向に動きます (故障しているわけではありません)。

図 1-4: 右へのバンク。エルロンによって航空機がバンクするようすです。
エルロンを下げると揚力が大きくなり (1)、エルロンを上げると揚力が小さくなります (2)。

左翼のエルロンが下がるため、左翼の揚力は大きくなります。右翼のエルロンは上がるため、右翼の揚力は小さくなります。その結果、航空機は右へバンクします。

図 1-5 のように操縦輪を左へ回すと、左翼のエルロンが上がり、左翼の揚力は小さくなります。

図 1-5: 左へのバンク。エルロンによって航空機がバンクします。
エルロンを下げると揚力が小さくなり (1)。エルロンを下げると揚力が大きくなります (2)。

右翼のエルロンは下がるため、右翼の揚力は大きくなります。その結果、航空機は左へバンクします。

エルロンは、片方の翼の揚力を大きくし、もう片方の翼の揚力を小さくします。この揚力の差によって航空機がバンクし、揚力の合力が旋回したい方向に傾きます。

エレベータ

エレベータは、航空機の後部にある可動式の水平翼面です。エレベータは、機首を上下させてピッチを変化させるための装置です (図 1-6)。

図 1-6: エレベータ コントロールによって変化する航空機のピッチ姿勢のようす。
尾部が下がる (1) のは、エレベータが上がった (2) からです。

“バック プレッシャー” とは

パイロットは、操縦輪を引くことを “バック プレッシャーをかける” と言うことがあります。これは、パイロットが航空機の操縦輪を “ゆっくりと” 引く操作を意味します。操縦輪はあまり強く引かない方がよいのですが、新米の訓練生に「操縦輪を引いて」と指示すると、その指示を文字どおりにとらえてぐいっと引いてしまう傾向があるので、このような言い方をするようになったのでしょう。

エレベータ コントロールも、エルロンと同じ航空力学の原理で機能します。図 1-6 のように、航空機の操縦輪を手前に引くと、エレベータ面は上を向きます。

尾部の下側に低い圧力が生じるため、尾部が下がり、機首が上がります。

図 1-7 は、操縦輪を前へ押したときの航空機の動きを示しています。

図 1-7: エレベータ コントロールによって変化する航空機のピッチ姿勢のようす。
尾部が上がる (1) のは、エレベータが下がった (2) からです。

エレベータ面が下へ移動し、尾部の上側に低い圧力が生じます。その結果、尾部が上がります。機首は左右軸を中心に下向きに回転します。前述のように、機首を上げるには操縦輪を引き、機首を下げるには操縦輪を向こうに倒します。

3 つ目の飛行制御装置であるラダーは、垂直軸を中心としたヨーを制御する装置です。ラダーについては、後ほど詳しく説明します。忘れているわけではありませんからね。

さあ、ここまでの説明で飛行制御の基本は理解できたと思います。次は、航空機の中に場所を移して、大切な操縦操作の 1 つ、水平直線飛行の方法について見てみましょう。

水平直線飛行

ここからの練習内容は水平直線飛行という、最も基礎的な操縦の 1 つです。”水平直線飛行” という名前からは、1 種類の操縦方法ではなく、異なる 2 種類の操縦方法が思い浮かぶかもしれません。そのとおりです。直線飛行とは、航空機の機首を一定の方向に向け、主翼と水平線とを平行に保った状態での飛行です。水平飛行とは、航空機の高度を一定に保った状態での飛行です。

図 1-8 は、パイロットが通常座る左座席から見た水平直線飛行のようすを示しています。

図 1-8

この図では山に向かってぶつかるように見えますが、心配しないでください。私がついていますし、何より私は山を避けて操縦するのが何よりも得意ですから。

直線飛行をしているかどうかを確認する方法

さて、実際にまっすぐ水平に飛んでいるかどうかは、どのようにすればわかるでしょうか。最も簡単な方法は、図 1‐8 のように、計器パネル越しに風防ガラス (フロント ウィンドウ) から外を見ることです。計器パネルの上部が、遠くの水平線とほぼ平行になっていますよね。このことから、主翼がバンクしていない、つまり今航空機は旋回せずにまっすぐに飛行していることがわかります。

直線飛行をしているかどうかを判別するには、もう 1 つ別の方法もあります。ジョイスティックのハット スイッチを押す方法です。ハット スイッチとは、ジョイスティックの真ん中、ちょうど親指のところに突き出ているボタンです。図 1-9 のように、左側または右側の窓から機外を見ると、地平線と左右の主翼との位置関係がわかります。

図 1-9

直線飛行では、左右の主翼が地平線から等距離になっているはずです (山頂ではなく、地平線を基準に見ましょう)。

正しい姿勢を保つ

実際の航空機の中では、首を大きく左右に回して窓から外を眺めるように指導しています。このようにすることで訓練生は、主翼の位置をチェックし、操縦席の外に視線を保って交通に注意することができます。ただし、この場合の交通とは、自動車の交通のことではありません。航空機の交通のことです。Flight Simulator では、常に左右を交互に見るのは面倒なので、水平儀を使用して水平直線飛行を維持します。水平儀は、目の前にある 6 個の主要計器のうちの、上段中央の計器です (図 1-10)。

図 1-10

水平儀は、実際の水平線を人工的に表現するものです。水平儀には、アップ ピッチまたはダウン ピッチ、および主翼と水平線とがなすバンク、つまり航空機の姿勢が表示されます。水平儀の上半分は、実際の空の色 (スモッグで悪名高いロサンゼルスは別として) のような青色で、下半分は地表のような茶色をしています。この 2 色の間の細い白線は、人工の水平線です。視程が低くて地平線が見えないときや、Flight Simulator で操縦しているときのように窓から翼端を見るのが不便なとき、実際のパイロットはこの水平儀を使用します。

ジョイスティックを左へ動かすと、図 1-11A のように、航空機は左へバンクします。つまり、左翼が地表方向へ下がります。

これが、左旋回の始め方です。水平儀に表示される、オレンジ色のミニチュア エアクラフトの左翼も、地表方向へ向けて下がっていることに注意してください。実際には水平儀の背景が動いて航空機の姿勢を示しているわけですが、表示されている小さなオレンジ色の主翼の左右どちらが地表に向かって下がっているかで、バンク方向は一目瞭然ですよね。 右と左のどちらかしかないのですから。

同様に、ジョイスティックをそっと右へ動かすと、右旋回していることが水平儀に示されます。図 1-11B では、主翼がオレンジ色の航空機の右翼が地表方向へ下がっているのがわかります。では、このミニチュア エアクラフトの両方の主翼が人工の水平線に平行になるまでジョイスティックを右または左へ動かしてみると、ジョイスティックは結局中央の位置に戻り、図 1-11C のようにミニチュア エアクラフトも直線飛行に戻ります。要するに、主翼がバンクしていなければ、航空機は旋回していないのです。

針路を知るには

直線飛行をしているかどうかを判別するには、さらにもう 1 つ別の方法があります。それは、航空機の定針儀 (図 1-12) を使用する方法です。

図 1-12

図 1-12 は、航空機の定針儀です (定針儀は “ディレクショナル ジャイロ” と呼ばれることもあります)。後述する 6 個の主要飛行計器の、下段中央にあります。定針儀とは、航空機がどの方向を向いているかを示す機械式コンパスと考えましょう。定針儀表面の数字に注意してください。どの数字にもゼロを 1 つ加えると航空機の実際の針路がわかるのです。つまり、6 は実際には 60 度の針路を意味します (「ゼロ シックス ゼロ」と発音します)。33 という数字は、実際には 330 度の針路です。発音するときは、「スリー スリー ゼロ」とはっきり言うようにします。飛行中は、特にはっきりと言うことが大切です。数字は 30 度間隔になっていて、数字と数字の間の印は、5 度および 10 度ごとの針路を示しています。

特定の針路を飛行するには、目的の針路に最も近い方向へ航空機を旋回させてみればいいのです。たとえば、定針儀の航空機の機首が、西を意味する W (270 度の針路) の文字を指すまで航空機を旋回させてみましょう。このとき針路が変わらなければ、旋回はしておらず、直線飛行しているということを表しています。これが、直線飛行をしているかどうかを判別するもう 1 つの方法です。

ここまでは、水平直線飛行の直線飛行の部分について学習しました。次に、水平飛行の部分について説明しましょう。

水平になっているかどうかを確認する方法

航空機の機首を上下に変化させると、高度はどのようになるか見てみましょう。ジョイスティックを手前に引いて航空機のピッチを大きくすると、水平儀のミニチュア エアクラフトも、図 1-13A のように上空の青色で示した領域を向きます。水平儀の上下方向の目盛りの刻みは、それぞれ 5 度の間隔になっています。下から順に、5、10、15、20 度のピッチです。

図 1-13

水平儀のすぐ右にある高度計を見てみましょう (図 1-13B)。通常は、機首が上がると長針 (100 フィート単位) が時計回りに動きます。時計の場合と同様に、針が時計回りに動くということは、何かの値が増加していることを示します。この場合、増加しているのは高度です。

高度計のすぐ下には、昇降計 (VSI) があります。航空機の機首を上げると、この針も上に振れて、上昇率を示します (図 1-13C)。これは、航空機が上昇中で、水平飛行をしていないことを示すもう 1 つの指標です。

ジョイスティックを中央の位置に戻すと、航空機は水平飛行に戻ります (ただし、後で説明する “トリム” が適切に調整されていることが前提です)。

航空機のピッチを下げて機首下げの姿勢になると、水平儀の中のミニチュア エアクラフトは、図 1-14 のように地表を示す茶色の領域を向きます。

図 1-14

高度計の針は反時計回りに回転し始め、高度が下がっていることを示します。VSI の針も下に振れ、降下率を示します。高度計の長針が静止し、VSI の針がゼロを示している場合は、水平飛行に入っていると考えてよいでしょう。実際に、パイロットはこれによって航空機が水平飛行に入っていることを確認します。

これらの針を安定させておくには練習が必要です (実際には、針は常に少しずつ動いています)。 平均的な自家用操縦士であれば、目標高度の 100 フィート内外にとどまっていられれば上々といえるでしょう。 残念ながら、私が生徒だったころは、目標高度を常に変更するほうがずっと簡単でした。もちろん、最終的には完璧にこの技能を修得しましたけどね。

フライング レッスンでは、水平儀に示されたオレンジ色の翼のミニチュア エアクラフトを人工の水平線と平行に保つことによって、直線飛行を維持する練習をします。主翼が右または左に下がる場合は、ジョイスティックを反対方向に動かして引き上げます。

また、高度計の 100 フィートの位を表す長い針が動かないようにして、水平飛行を維持する練習も行います。水平に飛んでいる限り、高度計の針は動かないはずです。針が動くようであれば、ジョイスティックを使って、針が動かなくなるまで細かくピッチを変更します。針が動かなくなった状態が、水平飛行に必要とされるピッチです。

トリムのタイミング

航空機には、航空力学上の力が重なり合って作用します。機首を上に向けようとする力もあれば、下に向けようとする力もあります。エンジン出力、重量配置、揚力など、さまざまな力が働いています。 これらの力に対して、どのように対処すればよいのでしょうか。航空機が前方に傾こうとする場合、飛行中にずっとジョイスティックを引き続けることはできません。操縦輪に力を入れ続けながらピッチ姿勢を維持していると、すぐに腕が疲れてしまいます。スポーツ ジムのトレーナーならそんなあなたを褒めるかもしれませんが、私は褒めませんよ。さいわいにも、航空機にはトリム タブという装置が付いています。これを使えば、操縦輪に (そしてパイロットに) かかるプレッシャーを軽減することができるのです。では、このトリム タブの働きと使い方について説明しましょう。

トリム タブの働き

トリム タブは、操作しようとしている主操縦翼面 (この場合はエレベータ) に取り付けられている小さな可動翼面です。図 1-15A は、トリム タブと、トリム タブの位置の変更に使用するトリム ホイールです。本物の航空機では、トリム ホイールは通常 2 つの操縦席の間か、計器パネルの下部にあります。

図 1-15A: エレベータ トリムの働き。(1) は機首下げ、(2) は機首上げ。

トリム タブを動かすと、トリム タブが取り付けられている操縦翼面の後部に、わずかな圧力の差が生じます。この圧力によって、主操縦翼面が必要な位置に保持されるため、操縦輪を握りっぱなしでいる必要がなくなります。 トリム タブは、影響を与える主操縦翼面とは反対の方向に動く点に注意してください。上昇時に操縦輪を手前に引く操作と同様にエレベータを上向きにするには、図 1-15A のエレベータ A のようにトリム タブは下へ動かさなければなりません。

反対に、降下時のようにエレベータを下向きの状態で維持するには、図 1-15B のエレベータ B のようにトリム タブを上へ動かす必要があります。

図 1-15B: エレベータ トリムの働き。(1) は機首下げ、(2) は機首上げ。

トリムは、パイロットがジョイスティックにかける力を抜いても、航空機を目的の姿勢に保持してくれる見えない手と考えてください。トリムを操作するのは、ジョイスティックにある小さなホイールまたはボタンです。

ジョイスティックにトリム ボタンがない場合、航空機が適切なピッチ姿勢になるようにトリムを調整するには、テンキーの 2 つのキーを使用します。1 キーを押すと機首上げトリムがかかり、7 キーを押すと機首下げトリムがかかります。

航空機のトリムを調整して水平直線飛行する方法は、次のとおりです。まず、航空機のトリムが適切に調整されているかどうかを確認するため、ジョイスティックにかけている力を緩めます。次に、VSI の針に注目します。針が上方へ回転して上昇を示した場合は、機首下げトリムをかける必要があります。水平飛行に戻るため、ジョイスティックを少し前方に押します。次に、テンキーの 7 キーを 1 回押すか、またはトリム ボタンを押して、機首下げトリムを軽くかけます。一度この操作を行ったら、ジョイスティックにかけている力を緩め、ようすを見ます。

トリム ボタンを押せば押すほど、トリムは大きくかかります。ですから、辛抱強く少しずつ行いましょう。VSI の針が示す上昇率の値がゼロに近づき、ほぼ水平飛行になるまでこの手順を数回繰返します。

VSI の針が下方に回転して降下を示した場合は、ジョイスティックを少し手前に引いて、航空機を水平飛行に戻します。次に、機首を上げるトリムをかけるため、テンキーの 1 キーを 2、3 回押すか、機首を上げるトリム ボタンを押します。一度この操作を行ったら、ジョイスティックにかけていた力を緩め、VSI の針の反応を見ます。航空機が上昇も降下もしなくなるまで、必要に応じてこの手順を繰り返します。

トリムを調整するとき、私はもっぱらこの VSI を使いますが、理由は VSI の針が非常に繊細だからなんです。VSI の針は、ピッチのごくわずかな変化にも敏感に反応するという意味です。つまり、水平飛行から外れた場合にも、すぐに検出できるというわけです。VSI の針を見ながら上昇または降下のトリムを調整する方法については、後ほど説明します。

多くの航空機には、エルロン トリムと呼ばれるバンクを調節するトリムがあります。種類によっては、あなたのジョイスティックにもこの機能が付いているかもしれません。バンクのトリムは、主翼の燃料荷重のバランスが悪かったり、乗客の重量が航空機の片側に片寄っているような場合に調節が必要になります。

航空機は、トリムが正しく調整されていても上下に多少揺れることがあります。高度にすると 100 フィートぐらいの上下です。これは、航空機にとってはごく普通のことなのです。トリムが適正であっても、機体の動きにはそれぞれ違いがあり、高度と針路がわずかずつ変化するのは普通です。変化が大きすぎない限り、そのままにしておきましょう。パイロットの役割は、できる限り簡単な手順で航空機を飛行させることなのです。そうすれば、パイロットは安全な飛行についての考察や計画、立案により多くの時間を割くことができますからね。

これで、フライング レッスンの最初の授業は終わりです。よくがんばりましたね。それでは、いよいよ飛行実地訓練の時間です。

今学習したことを練習するには、[このレッスンを開始する] をクリックしてください。フライング レッスンの次の講義では、旋回の基本について説明します。

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