レッスン 3: フル ILS アプローチ


何年も前の話ですが、”ATP” が何の略なのかを飛行教官にたずねた人がいました。教官の答えは、「Always Totally Proficient (いつでも、何でも、難なくこなす)」でした。もちろん、そのような意味ではありませんが、この定義は我々の目的にかなり近いのではないでしょうか。このレッスンを終えると、あなたもボーイング 737-800 で ILS アプローチを飛行するときに、大抵は何でも、難なくこなせるようになるでしょう。

このレッスンでは、ボーイング 737-800 で ILS アプローチを行う方法について詳しく学習します。この中では、ATP (定期運送用操縦士) のこれまでの 2 つのレッスンで習得したすべての技能を用いることになります。それでは、ILS アプローチの開始部分から始めましょう。

アプローチについての自己ブリーフィング

目的地の空港の気象状況、現地の高度計規正値、着陸予定の滑走路はわかっているので、ここで、アプローチに備えて情報の整理を始めましょう。情報の整理はきわめて有意義です。では、これから飛行するアプローチのアプローチ チャートを再確認しましょう。まだ自動操縦装置を使用していないのであれば、こんなときにこそ利用してください。自動操縦については、「自動操縦の基本」を参照してください。さらに詳しく学習する場合は、ラーニング センターの記事「自動操縦の使用法」を参照してください。

  • アプローチ前のブリーフィングは、イニシャル アプローチ フィックスに到達する前に行います。目的地の空港、滑走路、そして使用するアプローチに対応する正しいチャートが手元にあることを確認してください。

ブリーフィングの重要な要素として、次のようなものがあります。

  • 空港の標高
  • 主となる航法援助施設とその周波数
  • インバウンド コースの方位
  • グライド スロープをインターセプトする高度
  • ファイナル アプローチ フィックスの名称
  • 最低降下点 (高度、DME、時刻など。アプローチの種類によって異なります)
  • ミスト アプローチ手順
  • 視程に関する具体的な要件 (1 マイル、5,000 フィートなど)

この時点で、無線の周波数を合わせてインバウンド コースに乗ることはまずありません。これを行うのは、アプローチ チェックリストを確認するときです。ただし、標準の到着手順か、ATC が巡航高度からの降下を誘導している場合は管制官が出す指示に従う必要があります。

アプローチ

降下計画と速度管理の基本についてはすでに説明しましたね。それでは、いよいよ空港環境へと移り、着陸します。Flight Simulator のパイロットであるあなたは、着陸する空港と滑走路の正しいアプローチ チャートを持っていますが、チャートに記載されている到着経路の終わりから、選択した滑走路のチャートに記載されているアプローチ手順に入るまでの間が、どのチャートにも記載されていないこともあります。Flight Simulator の ATC 機能を使用して飛行している場合は、ファイナル アプローチ コース上にレーダーで “誘導” してもらう (どの針路に飛行するかを指示してもらう) ことになります。ATC を利用せずに飛行する場合は、正しく設定されたファイナル アプローチ コースを正確にインターセプトするために、特定の高度、速度、および針路で飛行する計画を立てる必要があります。

アプローチと着陸に関するヒント

  • 滑走路から 10 海里の地点を、3,000 フィート AGL で通過します。着陸装置を下げ、フラップを 15 度に設定、速度を 160 ノットにします。
  • 滑走路から 5 海里の地点を、1,500 フィート AGL で通過します。着陸装置を下げ、フラップを 30 度に設定、速度を 150 ノットにします。
図 3-1

このアプローチへの移行については、経験上、空港から 10 海里の高度 3,000 フィート AGL の地点から、航空機の体勢を正しく取り、ローカライザに従って飛行するように計画を立てるとよいでしょう。この 10 海里の地点に近づく間に 170 ノット以下に減速し、フラップを 5 度に設定します (図 3-1 参照)。グライド スロープ指示器が動き始めたら (針が振り切った位置から戻り始めたら)、着陸装置を下げ、フラップを 15 度まで下げ、160 ノットに減速します。3,000 フィート AGL であと 10 海里の地点ならば、まだグライド スロープに乗っていなくても、インターセプトできる十分な距離のはずです。

距離と高度がこれに近い位置であれば、3 度の降下経路でファイナル アプローチを飛行できることを覚えておいてください。アプローチは、地形や地上の障害物などを考慮しているので、それぞれ異なります。ファイナル アプローチ フィックス (FAF) では、着陸に備えてフラップを 30 に設定し、出力を N1 の 53% ~ 55% に設定して、スムーズに着陸できるようにグライド スロープに沿って降下します。

ATC の誘導を受けている場合も、自分で決めた降下経路を飛行している場合も、準備を整えることが正しいアプローチと着陸には欠かせません。これは、アプローチの正しいチャートを手元に用意し (この確認は降下のチェックリストの段階で済んでいますね)、無線を正しい周波数に合わせてあり、インバウンド コースを設定してある、ということです。アプローチ手順と、いくつかのポイントでの高度について、自分自身でブリーフィングを行っておくことが重要です。また、この手順のイメージを頭の中で描いておけば、余裕をもってアプローチを飛行することができます。

アプローチと着陸

図 3-2

航空機がローカライザに沿って飛行しており、グライド スロープ指示器が動き始めたら、着陸装置を下げ、フラップを 15 度に設定し、目標速度である 160 ノット (正確には、機体重量に応じた適切な Vref 速度) まで減速して体勢を整えます。これで、グライド スロープをインターセプトして滑走路に向かって降下する準備ができました。グライド スロープを下からインターセプトし、グライド スロープの指針が下に動いて 1 目盛り下がった地点で (図 3-2 を参照)、着陸時の最終的なフラップ設定である 30 に設定し、出力を N1 の約 53% に設定します。0 度への機首下げを開始し、ローカライザを基準とした機体の水平方向の位置と、グライド スロープを基準とした垂直方向の位置を監視してください。

ILS のトラッキング

針を中央に保って ILS アプローチを飛行するには、ファイナル アプローチ フィックスにおいて正しく体勢を整え、トリムを調整し、速度を維持することが最も有効な方法です。飛行経路からのずれを補正するには、ローカライザおよびグライド スロープをトラッキングしながら、微調整を頻繁に行います。このずれをすぐに補正しないと、補正過大による飛行経路のふらつきに陥ってしまい、思いどおりに飛行できなくなります。グライド スロープから外れてしまうと、木を何本かなぎ倒してしまうかもしれません。

グライド スロープのトラッキング

ピッチを正しく 0 度に設定すると機体がグライド スロープの上に出てしまう場合は、ピッチを下げてグライド スロープに戻り、同時に N1 の出力を 1 ~ 2% 下げて対気速度が上がらないようにします。ピッチを正しく 0 度に設定すると機体がグライド スロープの下に出てしまう場合は、ピッチを少しだけ上げてグライド スロープに戻り、同時に N1 の出力を 1 ~ 2% 上げて対気速度が下がらないようにしてください。なかなか言うことを聞かないグライド スロープの針をまっすぐに保つ秘訣は、ピッチと出力の変更を同時に行うことです。そうすれば、グライド スロープに戻ろうとする間も、目的の対気速度を維持できます。グライド スロープどおりに飛行しているけれども、対気速度が速すぎたり遅すぎたりする場合は、N1 の出力を 1 ~ 2% 調整しながら、エレベータを操作して目的のピッチを維持します。ピッチが安定しないと、グライド スロープを捉えてそれに沿って飛行するのが難しくなります。体勢、ピッチ、および出力設定を維持していれば、出力を少し調整するだけで、グライド スロープから外れないようにできます。

ローカライザのトラッキング

ローカライザ コースの左を飛行しているけれども、方位は合っている場合は、右に 2 度旋回し、翼を水平にしてしばらく待ちます。ローカライザを再び捉えたら、もう一度旋回してインバウンド コースに戻ります。ローカライザ コースの右を飛行している場合は、逆の方法で行います。センターラインから目盛り 2 つ分以上外れている場合は、インバウンド コースから 5 度の針路に旋回して、両翼を水平にします。針路を修正する量が大きくなりすぎないように、針路バグの幅を利用して旋回を行います。ILS でのコース補正を行うときは、標準旋回の 1/2 を超えるようなバンクは避けたほうがよいでしょう。もう一度念を押しますが、修正はあまり大きくせず、しばらく待つようにします。

自動操縦のフライト ディレクタ モードは、ILS の飛行方法を学習するときに大いに役に立ちます。 このモードについては、該当する項目を読んでおいてください。

計器のスキャン

頻繁に微調整を行うには、計器飛行証明のレッスンで学習したように、計器をすばやくスキャンしなければなりません。ボーイング 737-800 での計器スキャンのテクニックは、セスナ 172SP の場合とは多少異なりますが、これまでの訓練の内容がここでも大いに役立つはずです。

中心となる主要計器は水平儀ですが、この航空機では ADI (Attitude Direction Indicator) と呼ぶこともあります。ADI からスキャンを開始し、他の主要計器の 1 つを確認して、ADI に戻るようにスキャンを行います。HSI は水平位置指示器 (Horizontal Situation Indicator)、VSI は昇降計 (Vertical Speed Indicator) のことです。

計器のスキャン

スキャンする計器: 1 – ADI、2 – VSI、3 – HSI、4 – 対気速度計、5 – タービン回転計 (N1 パーセント値)、6 – 高度計

ボーイング 737-800 に適したスキャン パターンの例をご紹介します。

ADI、VSI、ADI (1、2、1)
ADI、HSI、ADI (1、3、1)
ADI、VSI、ADI (1、2、1)
ADI、対気速度計、ADI (1、4、1)
ADI、VSI、ADI (1、2、1)
ADI、N1 パーセント、ADI (1、5、1)
ADI、VSI、ADI (1、2、1)
ADI、高度計、ADI (1、6、1)

1 つの計器だけをじっと見つめないようにします。視線を ADI に戻すときに、計器の表示をすばやく記憶するようにします。他の計器をスキャンしながら、必要な修正を加えていきます。ここが楽しい部分です。スキャンが不要な計器は無視します。目的の対気速度ですでに安定している場合は、N1 パーセントの確認を省いてもかまいません。

滑走路の手前側の末端に近づくにつれ、ローカライザとグライド スロープの針はより敏感になります。アプローチを開始したときよりも、針の動き方は速くなります。高度を下げて ILS の終わりに近づいていくと、大きく補正したくなるかもしれませんが、じっと我慢してください。ここでも、今までと同じく頻繁に微調整を行って、予定どおりの飛行を続けます。

正しい体勢を取り、トリムが正しく調整されていれば、航空機の操縦は簡単です。以下のことを忘れないようにしてください。

  • 出力の N1 パーセント値を指定の範囲内に設定する
  • 推奨されている目標速度を使用する
  • 指定のフラップ設定を使用する
  • 推奨されているピッチで飛行する

以上の 4 つのポイントを守っていれば、指針の動きはそれほど速くならず、修正も簡単なはずです。

必要に応じて、アプローチと着陸のクイック リファレンス テーブルを確認 (場合によっては印刷) してください。ストレートイン視認進入着陸

最高に楽しいですね。楽しいことはほかにもあるでしょうが、ボーイング 737-800 で ILS アプローチを飛行するのは、格別な気分であることは間違いありません。これで、今回の ILS レッスンを受ける準備はできたでしょう。ぜひ、やってみてください。何事も、上達するには練習が必要です。納得の行くまでこの講義を読み返して、クイック リファレンス テーブルを印刷しておいてください。ILS で飛行するときは、ローカライザとグライド スロープの針が、おそらく上下左右に大きく振れるでしょう。それらの指針を安定させてアプローチできるようになるまで、このレッスンを何度でも繰り返してください。それが、学ぶということなのです。

では、コックピットでお会いしましょう。今学習したことを練習するには、[このレッスンを開始する] をクリックしてください。

このレッスンを開始する