レッスン 4: トラフィック パターン
航空機は “目的の場所に向かって飛行する” という意味では、伝書バトに似ています。伝書バトの目的地が家なら、航空機の目的地は空港です。 すべての航空機が一様に空港を目指し、しかも、ときには同じ空港に向かっていることを考えると、航空機どうしが衝突しないのは驚くべきことです。
パイロットは、伝書バトのようにうまく安全にやってのけていることに喜びを感じているとも言えるでしょう。実際は、空港周辺を飛行中のパイロットは、徹底した統制下にあるのです。サーチ ライトに集まる蛾のように無秩序に飛び回っているわけではありません。パイロットは皆、滑走路に対して長方形の経路を、特定の高度で飛行しているのです。 この経路は正式には “トラフィック パターン” と呼ばれ、この経路を飛行することにより、パイロットは空港付近を飛行している他の航空機を確認し、動きを予想することができます。離着陸の練習にもこの経路を飛行します。では、トラフィック パターンの飛行方法をもっと詳しく見ていきましょう。
空港周辺での飛行は、互いに衝突しないように、また、進行方向を滑走路に合わせて適切に着陸できる体勢を整えられるように、正確に注意深く行います。この、アプローチと滑走路に合わせるための飛行経路が、図 4-1 に示すような長方形のトラフィック パターンと呼ばれるものです。
トラフィック パターンは、大きく次の 5 つのレグ、つまりセグメント (区間) に分かれています。
- テイクオフ クライム
- クロスウィンド レグ
- ダウンウィンド レグ
- ベース レグ
- ファイナル アプローチ
ここからは、各セグメントについて簡単に説明し、その目的について考えてみましょう。 どこの空港でもかまわないのですが、せっかくですから美しいホノルル空港にいるつもりで順に見ていくことにしましょうか。
テイクオフ クライム
テイクオフ クライムは離陸時のレグです。離陸についてはすでに学習しましたよね。つまりあなたは、すでにこの最初のレグ (足) で、ひとり立ちへの第一歩を歩き出しているといえるでしょう。
クロスウィンド レグ
この訓練では、離陸後もそのままトラフィック パターンに残って飛行するので、クロスウィンド レグを目指して 90 度左旋回します (ほとんどのトラフィック パターンでは、常に左回りに旋回します)。 トラフィック パターンのこの部分はクロスウィンド レグと呼ばれています。なぜなら、飛行経路が滑走路に直角で、通常は横風を受けるコースだからです。この旋回は、航空機が滑走路の離陸端を越えた後、トラフィック パターン高度 (TPA) から 300 フィート以内で行います。TPA とは、トラフィック パターンを飛行する際の最大高度のことです。この講義では、海抜 1,000 フィート、つまり地面から約 1,000 フィート上空でトラフィック パターンを飛行しましょう (海上では、トビウオに注意しましょうね)。
テイクオフ クライムとクロスウィンド レグ全体をとおして (場合によっては、次のダウンウィンド レグに入っても)、航空機はトラフィック パターン高度まで上昇し続けることになります。どのレグで上昇を終えるかは、トラフィック パターンの大きさや、航空機の性能、滑走路の長さ、そして航空機に搭乗しているフラ ダンサーの数などによって異なります。クロスウィンド レグ上でトラフィック パターン高度に達したら、1,000 フィートで水平飛行し、90 ~ 95 ノットに加速して、出力を 2,000 rpm に下げて、トリムを調節します。また、トラフィック パターンを飛行しているときは、30 度を超えるバンク角で旋回しないようにします。今は空中戦のための旋回テクニックを練習する時間ではありませんからね。そちらのテクニックは、Microsoft® Combat Flight Simulator で磨いてください。
ダウンウィンド レグ
クロスウィンド レグを飛行し続けてから、やがて航空機はもう一度 90 度の旋回を行います。この旋回によって、航空機は着陸する方向とは逆向きに、滑走路と平行になります。今度は風を横切るのではなく追い風を受けながら進むことになるので、この区間はダウンウィンド レグと呼ばれています (図 4-1)。
ダウンウィンド レグを飛行するときは、着陸する滑走路から 0.5 ~ 1 マイル程度の距離をとります。これには、いくつかの理由があります。第 1 に、滑走路に十分接近した状態のまま適度な距離を保つことができるからです。この位置からならば、エンジン トラブルが発生した場合でも、滑空して安全に滑走路に着陸することができます。コースを外れたあげく、誰かさんちの海老取り網に突っ込む心配もありません。第 2 に、滑走路を容易に視認できる近さを維持することができます。滑走路の縁が小さいマッチ箱の端のように見えるほど、滑走路から遠く離れて飛行しては意味がありません。滑走路に近い方が、風による偏流を予測し、必要に応じて修正を加えることが簡単にできます。
問題は、ダウンウィンド レグへの旋回を開始する位置です。この位置を決めるには、いくつかの方法があります。実際の航空機では、左の窓から外を見て距離を測ることができます。Flight Simulator でも、しばらくの間、横の視界に切り替えて滑走路を確認し、また前方の視界に戻る方法で、同様に確認できます。または、すでに説明した便利な [仮想コックピット] 表示を利用することもできます。うまい方法ですよね。さらに、ちょっとした計算によって距離を推定することもできます。対地速度が 60 ノットならば、航空機は 1 分間に 1 海里進みます。したがって、クロスウィンド レグに旋回した後 30 ~ 60 秒の間のどこかで、ダウンウィンド レグへの旋回を開始すればよいのです。航空機は 75 ノットで上昇しているので (対地速度 75 ノットと想定)、旋回を始めるのはやや早くなり、クロスウィンド レグに旋回してから 24 ~ 48 秒経過した時点となります。また、最も簡単な方法としては、Flight Simulator の [トップ ダウン] 表示を使用して旋回ポイントを判断することもできます。
最後に、ダウンウィンド レグはどの方向に飛行すればよいのでしょうか。答えは簡単です。離陸した針路とちょうど反対の針路で飛行します。計算しなくても、滑走路と平行になったら、定針儀の一番下に表示される数字を見ればよいのです。それが、ダウンウィンド レグを飛行するときの針路です。
ベース レグへの旋回の準備
着陸する滑走路の末端が真横に来るポイントを通過するまでは、ダウンウィンド レグを飛行し続けます。そのポイントを通過したら、フラップを 10 度下げて着陸の準備を開始します。フラップを使用するときは、速度が 95 ノット未満であることを確認します。対気速度計の白い弧の終点が、この航空機でフラップを使用できる最大速度です。
着陸への準備を行うには
- 滑走路端の真横に到達したら、フラップを 10 度下げます。
- 高度を維持するためにジョイスティックを使用してピッチを調整します。
- 航空機のトリムを調整します。
トリムは、ピッチの変更には使用しないでください。まずジョイスティックでピッチを調整します。目的の高度になったら、ジョイスティックに力を加えずに済むようにトリムを調整します。
ダウンウィンド レグでは高度を維持することが重要です。ダウンウィンド レグに入ったときに、トラフィック パターン高度からの降下が早すぎると、他の航空機の上に着陸することになってしまうからです。
ベース レグ
さて、再び左に 90 度旋回する時がやってきました。これはベース レグと呼ばれます。ここから、あと 1 回 90 度旋回すれば、ファイナル アプローチに入ります。でも、ベース レグへの旋回はどこで開始すればいいのでしょうか。
周囲を飛行中の他の航空機のことは考えに入れないとすると、ベース レグへの旋回は、着陸滑走路端が操縦している航空機の翼 (この例では左翼) と尾部の間、約 45 度のところに見えるときに開始するのが、都合よくかつ現実的です。つまり、図 4-2 のように、左の窓の外を見ると滑走路の進入端が左側の翼に対して 45 度の位置になります (左翼と尾部の真中あたりです)。
この旋回によって、巨大なアメーバのような形ではなく、整然とした長方形を描いてトラフィック パターンを飛行したことになります。その結果、滑走路に対して、快適なアプローチを行うために十分な距離が確保されるのです。
確かに、左の窓から外を見て、ベース レグに旋回する位置に到達するタイミングを予測することも可能ではあります。しかし、それよりも図 4-3 のように、Flight Simulator の [トップ ダウン] 表示を使用して旋回ポイントを判断する方がよいでしょう。
ベース レグは着陸体勢に移行するポイントです。そして、航空機の速度および着陸体勢に関する重要な調整を行うべきところです。そのため、ダウンウィンド レグで前方を飛んでいる他の航空機がない場合でも、早すぎるタイミングでのベース レグへの旋回は避けるべきです。滑走路へのアプローチでは、多くの出来事が非常にあわただしく展開します。その中で、対気速度、フラップ、グライド パスを調整するための十分な時間を確保しなければなりません。こうした理由から、ファイナル アプローチの長さは少なくとも 1 マイルは確保すべきだと説明したわけです。時には、トラフィック パターンを変更し、ファイナル アプローチの長さが 2 マイルになるようにダウンウィンド レグを長く飛行した方がよい場合もあります。トラフィック パターンで前後に他の航空機が飛行していないと想定した場合、ファイナル アプローチを長くとると、着陸のために航空機の体勢を整える時間を長く確保できることになります。パイロットに、新しく、これまでより高速の航空機を初めて操縦させるとき、私はファイナル アプローチを長くとらせるようにしています。
着陸のための降下は、通常はベース レグ上から始まり、ファイナル アプローチの終わりまで継続します。 では、手順を説明します。
航空機がベース レグへの旋回に適切な位置にあるときに ([トップ ダウン] 表示でまっすぐ下を見ながら)、左に 90 度旋回します。適切な飛行針路を簡単に識別するには、ダウンウィンド レグで飛行していた針路の左 90 度の針路を確認します。それが、ベース レグを飛行するときの針路です。
- この針路へロール アウトします。
- アイドルまで出力を下げます。
- 70 ノットで滑空するよう調整します。
(可能であれば、個人的にはベース レグ上ではフラップなしの場合の失速速度より 40% 速い速度が好ましいと思います) - 70 ノットを保つようにトリム調整します。
これで、ファイナル アプローチを行う準備が整いました。
ファイナル アプローチ
ファイナル アプローチ (または単にファイナルと呼ぶこともあります) は、着陸手順の中で最も重要な部分です。一般的には、ベース レグからファイナル アプローチに移行するには 90 度旋回を行う方法が最も適しています。この方法ならば、航空機のグライド パスをよく見て修正を行い、滑走路と位置を合わせるための時間が十分にあるからです。ファイナル アプローチの間に、着陸の体勢を整え、速度をファイナル アプローチ速度に調整します (通常は、航空機の現在の失速速度より 30% 速い速度にします)。航空機がファイナル アプローチの降下に入って安定したら、滑走路の目標の位置に着陸するために、グライド パスが高すぎたり低すぎたりしていないことを確認します。
グライド パスが明らかに高すぎたり低すぎたりする場合は、ベース レグからファイナル アプローチに旋回するときに、それを修正することができます。
ここでは、ベース レグから出力オフでアプローチを行うことにしましょう。ベース レグに旋回した後で、出力を下げて降下を開始しました。ここでの目標は、滑走路の特定の地点に着陸することと仮定します。高度が低すぎる場合は、図 4-4 に示すように、ベース レグからファイナル アプローチへ早めに旋回します。
経路 1 は、降下時の飛行距離が短くなるので、滑走路上の目標地点に着陸できる可能性が高くなります。経路 2 は、経路 1 よりもやや長い経路です。経路 3 は、ファイナル アプローチに最適な 90 度旋回です。
高度が高すぎる場合は、図 4-5 に示すように、ファイナル アプローチへの旋回で意図的に大回りします。その結果、より長い降下距離を確保できます。
また、もう 1 つの選択肢として、図 4-6 に示すように、ファイナル アプローチに向けて S 字旋回を行う方法もあります。
S 字旋回とは、グライド パス上で左右交互に連続して旋回するものです。2 点間を結ぶ最短距離は直線なので、直線以外を飛行すれば移動距離が長くなります。降下率が一定だとすると、着陸地点まで遠回りすることによって、高度を大きく下げることができます。
ファイナル アプローチに入ったら、速度を 65 ノットに下げます。ただし、フラップを 20 ~ 30 度下げる場合は、60 ノットでアプローチします。トリムも忘れてはいけません。さあ、これで着陸ができますね。今学習したことを練習するには、[このレッスンを開始する] をクリックしてください。