VOR に関する重要点
古くても信頼できるこの方法を使うためのガイド
『Cleared for Takeoff』 (copyright 1998、King Schools, Inc.) からの抜粋
上の図は、ある VORTAC とそれに関連する通信情報のボックスを示しています。ここでは、これらが何を意味しているかを見ていきます。
まず、局の記号には時計のような刻みがあるので、これが本当に VORTAC であることがひとめでわかります。通信情報ボックスを見ると、その名前が Fellows であることがわかります。この局の信号を受信するには、航法受信機を周波数 117.5 に合わせる必要があります。
FLW はこの局を 3 文字で表した ID です。したがって、フライト プランに FLW と入力した場合は、この国には FLW という ID を持つ局はほかに存在しないので、誰が見てもあなたはこの Fellows VORTAC に向かって飛行することになります。
目次
トン ツー、ツー トン
次は、本当に役立つ情報です。Nav 無線機の周波数を 117.5 に合わせ、音量を上げて耳を澄ませてください。この 3 文字の ID を示すモールス信号が聞こえます。大多数の人がそうですが、暗号解読リングなしではモールス信号を解釈できないといったら、FAA はきっと残念がるでしょう。
“トン、トン、ツー、トン” という音が聞こえ始めたら、聞くことだけに集中し、トンやツーの音を、周波数ボックスにある VOR ID のドットおよびダッシュ (..- . .-.. .- -) と比較してください。
したがって、Fellows の場合は、”トン、トン、ツー、トン……トン、ツー、トン、トン……トン、ツー、ツー” と聞こえるはずです。これをチャートに記載されているものと比べると、合わせた周波数は FLW のもので、他の VOR のものではないことがわかります。
VOR の周波数を正しく合わせたことの確認
各 VOR は、モールス信号による ID と、場合によっては音声による ID を発信しています。デジタル チューニングの時代に VOR を識別する技術は必要ないと思われるかもしれませんが、その VOR が機能していて信頼できること、さらに自分が設定した周波数の数値が誤っていないことを確認するには、現在でも ID を聞き取ることが唯一の方法です。
ID が発信されていなければ、その VOR 信号を信頼することはできません。VOR で保守作業が行われているときは (おそらく信号の再調整を目的として)、ID 信号は除かれますが、VOR 航法信号はそのまま発信されていることも珍しくありません。したがって、必ず最初に VOR の識別を行ってください。
交信相手は誰なのか
Fellows VORTAC の通信情報ボックスの下を見ると、Rancho Murieta が管制を担当するフライト サービス ステーションであることがわかります。これは、この施設を介してフライト サービス ステーション (FSS) と音声で通信する必要がある場合の交信相手を示しています。
ボックスの上の 122.1R に注目してください。”R” は、FSS がこの周波数では受信のみが可能で、発信はできないことを示します。
したがって、無線機の周波数を 122.1 と設定した場合は、FSS はパイロットの声を聞くことができますが、パイロットは相手の声を無線機で聞くことはできません。ただし、FSS は VOR 周波数を使用して発信することはできるので、パイロットは Nav 受信機で FSS からのメッセージを聞き取ります。したがって、FLW では、パイロットは周波数 122.1 で Rancho Murieta FSS を呼び出し、周波数 117.5 で FSS からの応答を聞くことになります。
ボックスの上に記載されている周波数に “R” が付いていない場合は、その周波数を使用すれば、無線機で発信と受信の両方が可能です。
VOR のしくみ
VOR は、2 つの無線信号の位相差の原理を基に動作します。
“位相差” とは何でしょうか。「高校の物理の授業で聞いたような退屈な電子工学の話? 私は授業中居眠りしていつも居残りさせられていたんだけど」という人もいるかもしれませんね。いいえ、そんな退屈な話ではありません。
この概念を理解するために、2 つの信号灯を持つ 1 本の塔を思い浮かべてください。1 つの光は塔の周りを一定速度で回転しますが、非常に細いビームなので、自分の前をビームが通過するときしかそのビームは見えません。もう 1 つの光は、回転する光が磁北を通るときにのみ点滅し、その光はどの方向からも見えます (全方向性の光)。
回転する光が動く速度がわかっていれば、全方向性の光が点滅したとき (回転する光が北を通ったとき) にタイマーをスタートし、自分の位置で回転するビームが見えたときの時間を記録すればよいのです。後は、多少の数学的計算を行うだけで局からの方位がわかります。
これが VOR のしくみです。VOR から発信される信号の 1 つは回転する指向性の信号で、2 つ目の全方向性信号は回転する信号が北を通ったときにのみ発信されます。航空機の VOR 受信機は、この 2 つの信号の時間差つまり位相差を計測して、局からの方位 (ラジアル) を導き出します。
古くても信頼できる
この方式は古く、制約はありますが、米国のすべての航空路は VOR のラジアル上に作られています。これは他のほとんどの国でも同様です。VOR と VOR を結ぶように描かれた空のハイウェイは、数十年にわたって航空機の航法を支えてきました。
以上で、VOR 局に関することはすべて説明しました。長距離のクロスカントリー飛行を行うときに、VOR 局を識別し、その VOR を信用して使用できるかどうかを調べる方法はわかりますね。加えて、航空の世界に無数に存在する略語をまた 1 つ覚えて使えるようになりましたね。
これで、チャートを見たときにどれが VOR かがわかるようになったと思います。また、VOR を使用して針路を確認するときに必要な情報がどこに書かれているかもわかりますね。では、飛行機の中を覗いて、コックピットでの実際の VOR 受信のようすを確認してみましょう。
VOR 指示器
周波数や音量を設定する航法受信機のほかに、VOR ラジアルを視覚的に表す手段が必要になります。これは、目的のラジアルを選択し、そのラジアルを基準とした航空機の位置を示す高度なシステムです。驚くべきことに、このシステムは VOR 指示器という 1 つの装置にまとめられているのです。
VOR 指示器には回転するコンパス カードがあり、その外観は定針儀に似ています。また、定針儀と同じように、カードを回すためのノブが左下にあります。
コース セレクタ (OBS)
定針儀と異なり、VOR 指示器のノブは “OBS” (Omni Bearing Selector、コース セレクタ) と呼ばれます。この計器のカードは、パイロット自身が手で動かします。したがって、パイロットは OBS ノブを回して、矢印の先端が指す VOR ラジアル、つまりコースを選択します。選択肢は 360 個あります。
コース偏向指示器 (CDI)
指示器の中央にある垂直の針に注目してください。この針は、上部にヒンジで取り付けられており、左右に振れます。これは、”コース偏向指示器 (CDI: Course Deviation Indicator)” と呼ばれますが、一般的には単に “針” と呼びます。
この針を、ハイウェイの想像上のセンターラインと考えてみてください。ハイウェイの右側を走行している場合は、センターライン (針) は左側に見えます。自動車を左に寄せると、ハイウェイのセンターラインに近づくにつれて、針は指示器の中央に向かって動きます。
自動車をさらに左に寄せ、センターラインを越えると、針は中央を越えて右側に向かって動きます。フライト中は、あるラジアル (コース) を飛行するには、針が常に中央にあるようにします。針が左右どちらかに動いたときは、機体をその方向に向けます。
注意 : 針に向かって飛行してください。
道路の幅
では、空のハイウェイの幅はどれくらいあるのでしょうか。針が中央にあるときといっぱいに振れたときの差は 10°です。したがって、針が一番外側の目盛りを指している場合は、選択したコースから 10°離れていることになります。
上の図でわかるように、VOR 指示器の盤面には小さな円が等間隔で描かれており、これによって機体がコースからどれくらい離れているかがわかります。この図のように、両側に 5 個ずつ目盛りがある CDI の場合は、1 目盛りは 2°のずれを示すことになります。したがって、実際に知ることのできるコースとのずれは最大 10°となります。
針が左右どちらかいっぱいに振れて動かない場合は、コースから実際にどれだけ離れているかはわかりません。わかるのは、その差が 10°を超えていることだけです。
CDI はコースからの距離ではなく、コースとの角度を示すので、コースからの実際の距離は、航空機と局との距離によって異なります。たとえば、局から 60 マイル離れた地点を飛行している場合は、針の振れが 1°であれば、コースから 1 マイル離れていることになります。ただし、局から 15 マイル離れた地点を飛行している場合は、針の振れが同じ 1°であっても、コースからの距離はわずか 0.25 マイルとなります。これが、VOR 局に近づくにつれて針が大きく動く理由です。
To/From 指示器
指示器の中央部分にある小さなウィンドウには、小さな上向き三角形と共に TO という文字が白地で表示されたり、下向き三角形と共に FR (From) という文字が表示されたりします。また、このウィンドウいっぱいに赤白の縞模様が表示されることもあります。これは、Nav フラグまたはオフ フラグと呼ばれます。一部の To/From 指示器では、上向きと下向きの三角形のみが表示されます。上向きの三角形が TO を示します。
To/From 指示器は、OBS で選択したコースが局から離れるラジアルか、局に向かうコースかを示します。現在の針路のままで飛行した場合に、その局に向かうのか、あるいは離れていくのかを示すものではありません。
オフ フラグがウィンドウに表示されている場合は、受信した信号の信頼性が低いので、針路を確認するためにこの局を利用するのは避けたほうがよいことを示します。ただし、局の上空を飛行しているときや局を通過したときに、To/From 指示器の示す向きが反転する際にオフ フラグが一瞬表示されることもあります。