レッスン 7: 初めての単独飛行
飛行教官にとって最も嬉しい瞬間は、訓練生たちが単独飛行できるまでに育ってくれたときです。あなたは私の生徒ですから、このレッスンで単独飛行できるようになって、私にとってこれほどの喜びはありません。
セスナ 172SP に乗り、空港の周囲を回るトラフィック パターンを自分だけの力で一周し、あなたの腕を試すときが来たのです。たった 1 人で。誰も助けてはくれません。 まさに、単独飛行です。
単独飛行の定義について、明確にしておきましょう。あなたは、教官である私からの直接的な助けを受けずに、自分自身の力で飛行しなければなりません。単独飛行はソロ (solo) とも言いますが、低いところを飛ぶという意味の “so low” ではありませんし、1 人で歌うことでもありません。もちろん、そんな気分になったら歌ってもかまいませんけどね。私が同乗していないとき、どう楽しむかはあなたの自由ですから。
このレッスンでは、うまく飛べるかどうかはすべてあなたにかかっています。ただし、私は無線であなたと交信するので、ある程度までは電波を通じてあなたに指示することはできます。
このレッスンを意義深いものにするために、航空機に特定の操作を行うタイミングと位置については、私が指示を出します。 あなたがしなければならないことは、今までに身に付けた飛行に関する知識を実践に移すことだけです。私は無線であなたと交信するので、離陸が許可されたときと、着陸するために必要な針路と高度については、私からお伝えします。離陸したのと同じ空港に戻れるようにね。あなたは、私の指示に従いながら、空港を囲む長方形のトラフィック パターンを左回りに周回し、最後に着陸に向けて滑走路 19 に機体の向きを合わせます。
このレッスンは、ブレマートン空港の滑走路 19 上で待機しているところから開始します。離陸前に、遠くで削岩機のような音が鳴っているのが聞こえるかもしれません。滑走路を修理しているわけではないですから、心配は無用です。それは、あなたの心臓の鼓動の音なのですが、ごく自然な反応です。 これは、とてもエキサイティングなイベントですから、興奮しないほうが不思議でしょう。 準備が整ったら、私の指示に従ってブレーキを解除し、パワーを上げ、加速してください。55 ノットに達したら、初期上昇姿勢である 10 度の機首上げ姿勢まで機首を上げます (図 7-1)。
その後で、ピッチを微調整して、80 ノットで上昇するようにします。
針路 190 度を 80 ノットで上昇し (図 7-2)、1,500 フィートに達したら水平飛行に移ります。
パワーを調整して、対気速度が 100 ノットを超えないようにします。また、トリムを正しく調整してください。トリムを調整していないと、パイロットには航空機を操縦するために過大な筋力が要求されることを思い出してください。上腕二頭筋を鍛えるのは、航空機の中ではなくスポーツ ジムでやりましょう。航空機と力比べしようとは思わないことです。
この単独飛行では、高度は +/-100 フィート以内、対気速度は +/-10 ノット以内、針路は +/-10 度以内、ピッチは指定された角度の +/-3 度以内に維持する必要があります。また、旋回時のバンク角は 20 度を超えないようにします。バンク角は 20 度の +/-10 度以内を保つように注意してください。ここまでの訓練で、あなたは、以上のことをできるだけの技能を身に付けているはずです。
1,500 フィートで水平飛行に移り、機体が安定したら、左に 90 度旋回して針路を 100 度にするよう私が指示を出します (図 7-3)。
ここからトラフィック パターンのクロスウィンド レグと呼ばれる部分になりますが、これについては後の自家用操縦士のレッスンで説明します。この時点では、滑走路があなたの左の肩越しに見えるようにすることが重要です (図 7-4)。
滑走路の場所を確認するには、窓から外を見ます。
窓の外を見るには
- NumLock キーがオンになっていることを確認します。
- テンキーの 1 キーまたは 4 キーを押します。
または、
ジョイスティックのハット スイッチを動かします。
説明を簡単にするために、これ以降はテンキーを使う方法で説明していきます。
私が合図を出したら、もう一度左に 90 度旋回して、針路を 010 度にしてください。 これで、離陸時とは逆の方向に進むことになります。滑走路があなたの左側に見えているはずです (図 7-5)。
風上に向かって離陸したので、今度は風下 (ダウンウィンド) に向かって飛行していることになります。そのため、トラフィック パターンのこの区間を、ダウンウィンド レグと呼びます。計算がいつもこんなに簡単だったら、と思いませんか? もう一度、テンキーの 4 キーを押して、滑走路が見えていることを確認してください。
航空機が着陸滑走路の進入端の真横 (着陸する滑走路にある滑走路番号が、左翼の真横に並ぶ地点。図 7-6 を参照) に到達したら、着陸に備えてフラップを 10 度下げてください。
ここでは、パワーの調整を気にする必要はありません。フラップを下げ、ピッチを調整して、1,500 フィートでの水平飛行を続けることに専念してください。次に、ジョイスティックに力を加えずに済むようにトリムを調整します。対気速度が少しだけ下がります。ここで特定の対気速度を維持することは、もちろん大丈夫ですね。
この位置でフラップを下げることによる最大の利点は、機首越しの視界が良くなるということです。これはとても大切です。着陸に際して滑走路が見えるということは、パイロットにとっては、とても助かることだからです。本物の航空機では、フラップを 10 度下げれば、”垂直方向に制約のある” パイロットが機首の先を見渡すのにかなり役立つでしょう。私はこれまでに、まだ成長期を迎えていない大勢の若い生徒たち (若くない生徒も 2、3 人いました) を教えてきましたが、彼らは皆、フラップの効果に心から感謝していたものです。座面を高くするための補助いすの用意を、フライト スクールにお願いする必要がなくなりますからね。
速度が 110 ノットを超えない限りは、フラップを 10 度下げても、フラップが機体から吹き飛んでしまう心配はありません。あまり高速でフラップを下げると、損傷してしまうおそれがあります。フラップが損傷すると、パイロットや航空機に被害が及ぶことも考えられ、場合によってはあなたに捧げるカントリー アンド ウエスタンの曲が書かれるほどの惨事に発展するかもしれません。
そろそろ、もう一度 90 度の左旋回を行う地点に近づいてきました。そのタイミングが来たら、私が指示するので、方位 280 度に左旋回してください (図 7-7)。
20 度のバンク角で旋回したら、私が着陸に向けて降下を開始するよう合図を出すまでは、水平飛行を続けてください。この地点をベースに、航空機を着陸させる準備を始めます。だから、トラフィック パターンのこの区間をベース レグと呼ぶのです。 いちいちうるさいですか? 子供のころ、このせいでたいへんなことになりかけました。私が祖父に口答えしていたとき、祖父は「お前は、ああ言えばこう言うんだな」と言いました。もちろん、私はすかさず「『こう』なんて言ってないよ」と答えました。その晩は、もうちょっとで祖父に私の出生証明書を書き換えられるところでした。 やれやれ。
機体の向きを滑走路に合わせる、最終旋回の位置に来たら、私が合図するので 90 度旋回して針路を 190 度にします (図 7-8)。
これで航空機と滑走路の向きが揃い、航空機はファイナル アプローチ コースと呼ばれる区間に入ります。滑走路がまっすぐ前方に見えているはずです (図 7-9)。この地点で、いつ減速を開始するか、そして、着陸に向けての降下をいつ開始するかを決定する必要があります。これまでのレッスンで学習したように、航空機を着陸させるために必要なパワーとフラップの設定をすべて行ってください。この操縦は、すべてあなたに任せます。なんといっても、これはあなたの初めての単独飛行なのですから。PAPI を利用して、グライド パスから外れないように注意してください。
これが本物の航空機での単独飛行だとしたら、仲間たちが滑走路の脇に並んで、あなたに声援を送っている姿が豆粒のように見えているでしょう。今は、あなたが無事にたどり着いて着陸するのを地上で迎える私の姿を想像しておいてください。ここから先は、あれこれ言うのは控えます。あなたは自分の力でやり遂げなければならないのですから。
単独飛行とシャツの裾
初めて飛び立つ訓練操縦士のシャツの裾を破る習慣がいつから行われているのか、知る人はいません。けれども、自分の生徒が初めて単独飛行に挑戦するときにこの習慣を行う教官は、今もたくさんいます。中には、こんな説を唱える人もいます。昔、航空機のコックピットに屋根がなく、操縦席が縦に並んでいた時代、飛行訓練では教官が後部座席に座り、生徒が前の座席に座りました。訓練生の注意を引くとき、教官は前かがみになって訓練生のシャツの裾を引っ張りました。単独飛行では教官は同乗しないので、引っ張られるシャツの裾もいらない、というわけです。
おもしろい習慣ですよね。訓練操縦士が初めて大空に向かって単独で飛行する姿を眺めるときほど、教官として誇らしく思うことはありません。
さあ、いよいよあなたが単独飛行を行う番です。大空へ飛び立ち、私に誇らしい気分を味わわせてください。無事成功したら、フライトが終了したときに渡される単独飛行技能証明を印刷してください。