レッスン 3: 上昇と降下


私が小学校 5 年生のときのことです。先生に「前に出てきてスピーチに必要なものを挙げるように」と言われました。私は教室の前へと進み出て、クラスのみんなに向かっておごそかにこう答えました。「唇、舌、肺、酸素です」もちろん、それは先生が期待していた答えではありませんでした。

スピーチ同様、航空学にも基本要素というものがあります。ここまで、飛行において最も重要な 4 つの基本技術のうちの 2 つを練習してきました。水平直線飛行と旋回です。ここからは、残りの 2 つを練習しましょう。上昇と降下です。

航空学における最大の誤解の 1 つに、航空機は揚力が増加すると上昇する、というものがあります。これは、航空機の燃料タンクにハンド クリームを塗ったら、よりスムーズでソフトな若々しい着陸ができるようになる、と考えるのと同じくらい間違っています。

航空機が上昇するのは、揚力の増加によるものではなく、推力の増加によるものです。道路を走る自動車を例に説明してみましょう。

坂を登る車は、上昇中の航空機に似ています。自動車と唯一異なる点は、航空機では、パイロットが上昇するときの傾斜角度を選択できる点です。傾斜角度を選択するには、すでに説明したエレベータ コントロールを使用します。

水平で平坦な直線の道路では、この自動車の最大出力での最高速度は時速 65 マイル (約 105 km) です (図 3-1 の自動車 A)。

図 3-1: 出力と上昇角度
アクセル全開でも、勾配が大きくなるにつれ走行速度は低下します。

坂を上るときには、速度は時速 50 マイル (約 80 km) に低下します (自動車 B)。さらに傾斜の急な上り坂では、自動車の速度は時速 40 マイル (約 64 km) に低下します (自動車 C)。エンジンの馬力には限度があるため、坂が急になるに従って、風の抵抗と後方に作用する重力によって生じる抗力に対抗できず、自動車は減速します。この使い込んだ古い自動車で坂をもっと速く上れるようにするには、大型のエンジンを取り付けるか、または自動車を再設計して風の抵抗を少なくするしかありません。

空中で上昇する航空機にも、ある程度までは同じことが言えます。

航空機がフル スロットルで水平直線飛行するときの最大速度が、時速 120 マイル (約 193 km) だとします (図 3-2 の航空機 A)。

図 3-2: 出力、上昇角度、対気速度フル 
スロットル (最大出力) でも、上昇角度が大きくなるにつれ
航空機の速度は低下します。
パイロットは、特定の上昇対気速度になる姿勢を選択して、
上昇角度 (勾配) を調整します。

航空機のスロットルは、自動車のアクセルと同じようなものだと考えてください。ただし、航空機のスロットルは手で操作しますけどね。パワーを上げるにはスロットルを前方へ押し、パワーを下げるには手前に引きます。エレベータ コントロールを少しだけ手前に引くと、航空機の機首が上を向きます (航空機 B)。これにより、航空機は緩やかな角度で上昇し、また先ほどの自動車と同様に減速します。この場合、速度が時速 80 マイル (約 129 km) まで低下したとします。さらに急な傾斜で上昇しようとすると (航空機 C)、速度は時速 70 マイル (約 113 km) に低下します。この航空機には馬力 (推力) に余裕がないため、この角度では時速 70 マイルより速く上昇することはできません。

上昇角度をさらに急にすると、自動車の速度と同様に、対気速度はさらに低下します。ただし、ここからは自動車と異なります。航空機は、空中にとどまるために必要な揚力を主翼で生み出すために、最小前進速度を維持する必要があります。なぜ航空機には滑走路が必要か考えてみたことがありますか? 走り幅跳びの選手と同じ理由です。 航空機にも幅跳びの選手にも、離陸するためにはある程度の速度に達する必要があるのです。

この最小前進速度は、航空機の “失速速度” と呼ばれています。失速速度は、重量、フラップ角度の設定、パワー設定、バンク角などのさまざまな要素の影響を受けて変化する、重要な速度です。失速速度は、航空機の機種によっても異なります (失速しかけている状態を認識する方法については、後で説明しますのでご心配なく)。航空機が失速速度よりも速く飛行していれば、航空機の重量に見合う十分な揚力が生み出され、航空機は飛び続けることができます。

航空機 C (図 3-2) の失速速度が時速 60 マイル (約 97 km) の場合、より急角度で上昇すると、飛行に十分な揚力が得られなくなります。この状態を “失速” といいます。思いがけず失速状態に陥ると、人は「うわー」、「ぎゃー」、「あー」といった言語学的にはきわめて原始的な音声を発しがちですが、訓練中に万が一不本意ながら失速させてしまったとしても大丈夫。そんな場合に備えて、われわれ飛行教官には奇声を抑える特殊な生物学的フィルタが装備されていますから。いうまでもなく、実際の航空機でこのような奇声を発してしまうと、乗客はあなたの操縦する航空機には二度と乗ってくれないでしょう。ですから、この後のレッスンでは、失速のしくみについてまず学び、そして実際に (つまり故意に) 失速を体験してみます。

ここで失速について知っておくべきことは、ジェット戦闘機などパワーの大きい航空機は急角度でも上昇できますが、パワーが限られている航空機は、緩やかな角度で上昇しなければならない、ということです。

上昇飛行は、翼によって増加した揚力ではなく、増加した推力が原因であることを理解しておくと、興味深い結論を引き出すことになります。たとえば、エンジンのパワー低下の原因となるものは、すべて最大上昇率の達成をも妨げることになります。 パワーを低下させる要因には、高高度や高温などが挙げられます。フル スロットルにしないで上昇した場合もパワーは低下しますが、これについては説明するまでもありませんよね。

さて、ここで 1 つ、大切な質問があるはずです。質問といっても、「航空機が轟音を立てて森林に不時着したとして、周囲にその音を聞く者が誰もいなければ、轟音が響いたことにはならないのでは?」といった類の禅問答ではありませんよ。「航空機の適切な上昇角度はどのように決定すべきか」ということです。では、その質問にお答えしましょう。

航空機は、ある特定の上昇姿勢 (坂の傾斜角度に当たります) で上昇すると、失速速度まで速度を下げることなく安全に飛行でき、上昇性能を最大限に引き出すことができます。航空機の適切な上昇姿勢を見極めるには、対気速度計を参照します。

上昇パワー (一般的に、小さな航空機ではフル スロットルです) にセットして、対気速度計で適切な上昇速度が示されるまでピッチを調整します。われわれがレッスンで操縦するセスナ 172SP では、常に速度 75 ノットで上昇します。場合によっては、75 ノットよりも少し速い対気速度で上昇するパイロットもいますが、これは目的地に早く着きたいからではありません。上昇角度を緩やかにして、機首越しの視界を広くするためです。

機首を上げると対気速度は下がり、機首を下げると対気速度は上がります。対気速度計の動きは、機首の角度、つまり姿勢または上昇角度によって決まります。地上と異なり、パイロットは空中での上昇角度をある程度まで決定できます。 少し訓練すれば、対気速度計だけに頼らず、正面の窓から機外を見て、適切な上昇角度 (機首上げ姿勢) を確認できるようになります。訓練生だったころは、私もこの対気速度の調整が大の苦手でした。昔からあまり運動神経に恵まれているほうではありませんでしたし、ましてや反射神経ときたら、パンクして 2 人がかりで人が押している自動車に轢かれかけたことがあるくらい鈍かったんですよ。つまり、13 歳のオリンピック体操選手並みの運動神経と反射神経の持ち主でなくても、有能なパイロットにはなれるってことを、私は身をもって証明しているわけです。

降下

自動車はエンジンのパワーによって坂を登りますが、同時に重力によって下へ引っ張られます。アクセルを踏んでいないときに自動車が坂を下る速度は、坂の傾斜角度によって決まります。坂の傾斜角度が急になるほど、坂を下る速度も速くなります。傾斜角度が緩くなると、坂を下る速度は遅くなります。坂の傾斜角度が緩くなりすぎた場合、前に進むために十分な速度を維持するには、何らかのパワーが必要になります。

自動車と同様に、航空機もパワーなしに降下できます (図 3-3)。

図 3-3: 降下中の航空機

機首を下げるだけで、まるで遊園地の乗り物にタダ乗りしているような気分を味わえます (実際はタダではないんですけどね)。 機首の下げ具合はエレベータ コントロールで調整できるので、パイロットの望みどおりの対気速度で降下することが可能です。

これで、初めて航空機に乗る乗客なら誰もが抱く疑問に答えが出ましたね。「エンジンが停止してしまったらどうなっちゃうんだろう?」エンジンが停止すると、航空機はグライダーになるのです。

上昇時と異なり、降下時の対気速度については幅広い選択肢から選択が可能です。ただし、前方の視界、エンジン冷却、乱気流が機体に与える構造上の影響など、考慮すべき要素は数多くあります。

また、着陸のためのアプローチの最終段階 (“ファイナル アプローチ” と呼びます) では、ある一定の対気速度を維持する必要があります。通常、この対気速度は航空機の失速速度より少なくとも 30% 速い速度です。着陸準備の際、対気速度が速すぎたり、制御が不安定だと、往々にしてスムーズな着陸は難しくなります。

上昇の開始

理論的な説明ばかりで、実際の操作について説明しないのではおもしろくありませんよね。では、上昇するときの操作について見ていきましょう。まず、航空機が対気速度 100 ノット、巡航出力で水平直線飛行しているとします。上昇を開始するには、機首を上げて上昇姿勢にし、同時に上昇パワーにセットします。要するに、適正な範囲内で可能な限り、すばやく一気に航空機を上昇させれば、上空の追い風や良好な視界の恩恵を授かることもできて、いいこと尽くしというわけです。ですからセスナ 172SP でのレッスンでは、上昇は常にフル スロットルで行います。次に、この姿勢で航空機を維持するように機首上げトリムを調節します。

機首を上げるとすぐに対気速度が低下し、昇降計 (VSI) が上昇していることを示し始めます。これは、航空機が確かに上昇中であることを確認できる何よりのサインです。地上の人々がアリのように小さく見えてきたなら、それも確かにもう 1 つのサインではありますが。

図 3-4 は、航空機が速度 85 ノット、上昇率毎分 500 フィートで上昇している状態です。

図 3-4

上昇中

エンジニアたちの話では、セスナ 172SP では 74 ノットでの上昇が最も効率的だそうです。図 3-4 の航空機は 85 ノットで飛行しています。フル パワーで上昇しながら、対気速度を 74 ノットに減速するにはどうしたらよいのでしょうか。

この場合、航空機の機首を上げて、少し上向きの上昇姿勢にします。つまり、登っている坂の傾斜角度を大きくするのです。そのままの状態を維持し、対気速度計の反応を見ます。機首を上下に微調整して、対気速度計が 74 ノットを示すようにします。75 ノットでも大丈夫ですよ。辛抱が肝心です。航空機には慣性があるので、ピッチを変更してもすぐに新しい速度にはなりません。

75 ノットの上昇速度を維持するには、図 3-5 に示すように、水平儀が約 13 度のピッチを示すようにする必要があります。

図 3-5

ここでは、水平儀をバンクとピッチの基準として使用しています。コンピュータのフライト シミュレーションでは、実際の水平線を計器パネル越しに見るのは困難なためです。水平儀の上下方向の目盛りの刻みは、それぞれ 5 度の間隔になっています。下から順に、5、10、15、20 度のピッチです。13 度のピッチは、下から 3 番目の線のすぐ下あたりになります。

もちろん、上昇のピッチは多少変化します。 大切なことは、目的の上昇対気速度を維持できる正しいピッチを見つけるということです。

ワルツのように

これで、航空機を上昇させる秘訣がわかりましたね。 次回上昇するときは、この手順を守ってください。まず水平儀が 13 度の機首上げ姿勢を示すまで機首を上げ、フル スロットルにして、航空機のトリムを調整し、この姿勢を維持します。実に簡単です。その後、ピッチを 1 ~ 2 度微調整して目的の対気速度にします。上昇態勢に入るということは、3 ステップのワルツだと思ってください。こんな感じです。ワン、ツー、スリー、ワン、ツー、スリー、姿勢、パワー、トリム。姿勢を変更し、パワーを変更し、姿勢が安定したらトリムを調整します。

もちろん、もう少し速い速度で上昇することも可能です。そうすれば、計器パネル越しに外の風景を眺めたり、ぶつからないよう他の航空機に注意する余裕ができるかもしれませんね。一定の高度まで急いで効率的に上昇する必要がないときは、適切な上昇率で、かつ計器パネル越しの景色も適度に楽しめるような対気速度を見つけてください。

上がったら降りてこなければならない

上昇をいつまでも続けていると、やがて航空機は大気圏外に飛び出してしまいます。いえ、もちろん、実際に大気圏外に飛び出すことはありませんが、それでもやはり、降下の方法も理解しておく必要があります。

航空機で降下するということは、自動車で坂を下るようなものだと考えてください。まず、自動車で急な坂を下る場合、通常はアクセルから足を離して惰性で下ります。坂の勾配によって、自動車の最終的な速度が決まります。急な坂では速度は速くなり、緩やかな坂ではそれほど速くなりません。そして、これは航空機も同じです。

図 3-6 は、パワーを下げてアイドリング状態で飛行している状態です。

図 3-6

これは、坂を惰性で下っている状態と考えることができます。 この図では、対気速度は 80 ノットで安定しています。 ここで、坂の勾配を変更してみましょう。

ピッチを変更すると対気速度が変化する

ピッチの変更が対気速度に及ぼす影響を見てみましょう。トリムは再調整せずに、勾配を急にするために機首を少し下げて、対気速度計が 90 ノットを示す姿勢にします。 この操作は、水平儀を見ながら行ってください。ピッチをわずかに (0.5 ~ 2 度) 調整してそのピッチを維持すると、対気速度が上がります。

最終的には、対気速度計が 90 ノットを示し、水平儀は図 3-7 のようなピッチ姿勢を示します。

図 3-7

この速度で降下する場合は、この姿勢を維持するように航空機のトリムを調整します。

次に、勾配を緩やかにするために機首を上げて、対気速度計の値が 70 ノットになる姿勢にします。図 3-8 は、対気速度を 70 ノットにするための姿勢を示しています。

図 3-8

次に、降下中に対気速度を調節する方法について説明します。水平儀の上下方向の目盛りの刻みを使用して、ピッチを調整します。少し変更してみて、その結果を確認します。対気速度はゆっくり変化するので、速度が変化するまで辛抱強く待ってください。

ピッチをこのように調整することによって対気速度をコントロールする方法は、特に着陸準備においては重要になります。なぜなら、着陸アプローチを行うときには、さまざまな速度で飛行する必要があるからです。ピッチを変更することによって、希望する対気速度で降下することができるのです。トリムを使用して、航空機を目的の姿勢と対気速度に維持するということを、しっかり覚えておいてください。

おっと、うまく誘導されちゃったようですね。では、降下率の変更について、ちょっとだけ説明しましょう。

降下率の変更

対気速度は一定に保ち、降下率を下げて、つまり昇降計 (VSI) の値を小さくして降下するにはどうしたらよいでしょうか。ここでやっと、パワーを使う時がやってきました (パワーといってもエンジン出力のことですよ。国家権力ではありませんので誤解のないように)。パワーは、降下率と密接に関係しています。

図 3-9 の航空機は、速度 80 ノットのアイドル状態で、毎分約 700 フィート (fpm) 降下しています。

図 3-9

たとえばアプローチのとき、滑走路まで到達するために降下率を小さくする必要があるとしましょう。 さて、どうしますか。パワーを高い値、たとえば毎分 1800 回転 (rpm) にして、ピッチを少し調整し 80 ノットを維持します。必要に応じて、トリムを再調整します。

各計器は、図 3-10 のようになります。

図 3-10

パワーを少し上げたため、航空機の降下率は毎分 300 フィートになります。もちろん、さらにパワーを上げれば、航空機は降下しなくなります。そして、さらにパワーを上げると、航空機は水平飛行を行うか、または 80 ノットで上昇を始めます。

トレーニングのこの段階は、航空機の操縦方法を確認するのに良い時期です。パワー (スロットル位置) は、降下率を調整するために使用します。航空機のピッチ姿勢は、特定の対気速度を維持するためにジョイスティックで制御します。上昇時は、必ず最大許容出力 (通常はフル スロットル) にします。このとき、目的の対気速度にするために、ジョイスティックで航空機の姿勢を調整します。 ここまで上昇と降下の手順を学習したので、今度はこれをレッスン 2 で習得した旋回と組み合わせてみましょう。

高度計の読み取り

図 3-14

図 3-14 は、大半の航空機に設置されている典型的な高度計です。

高度計には、2 本の針があり、さらに航空機の高度を 10,000 フィート単位で表す 1 つの小さな点があります。短く太い方の針は、高度の 1,000 フィートの位を表します。長く細い針は、高度の 100 フィートの位を表します。

高度計は、時計と同じように読むと簡単です。たとえば、図 3-14 の 1 番目の高度計が時計だとしたら、何時になりますか? そう、3:00 ですね。1 番目の高度計は時計ではありませんから、これは 3,000 フィートという高度を表しています。長い針は 100 フィートの位がゼロであることを指し、千の位を表す針は 3,000 フィートを指しているのです。

では、2 番目の高度計が時計だとしたら何時になるでしょう? 3:30 ですよね。高度計として読むと、3,500 フィートになります。百の位を表す長い針は 500 フィートを指し、千の位を表す短い針は 3,000 フィートと 4,000 フィートの間を指しています。したがって、高度は 3,500 フィートになります。

3 番目の高度計も時計だったら何時になりますか?だいたい 6:45 くらいですね。もっと正確には、百の位を表す長い針は 800 フィートを指し、千の位を表す短い針は 7,000 フィートより少し手前の位置を指しています。したがって、高度計は 6,800 フィートを示していることになります。ほら、それほど難しくないでしょう?

4 番目の高度計も、時計の読み方をしてみましょう。何時になるでしょうか。3:00 のようでもありますが、小さな点の位置をよく見てください。この点は 1 を少し過ぎたところにあります。したがって、高度計の短い針と長い針が示す数に 10,000 フィートを足さなければなりません。つまり、4 番目の高度計は、高度 13,000 フィートを示しているのです。

上昇と旋回

旋回しながら上昇、降下を行うとしましょう。さらに細かく条件をつけるなら、20 度バンクの右旋回に入りながら上昇し、次に水平直線飛行に移る方法について見ていきます。では、操縦方法を説明しましょう。

まず、上昇姿勢を確立します。図 3-11 に示すように、ピッチを大きくして 13 度の機首上げ姿勢にします。次に、フル スロットルにして、次にトリムを調整します。

図 3-11

次に、目的の角度までバンクします。この操作の秘訣は、水平儀にあるオレンジ色のボールをピッチの基準として使用することです。オレンジ色の翼は水平線と平行にならないので、オレンジ色のボールを基準にしてピッチを調節し、バンク角はオレンジ色の針を基準にします。

上昇時と降下時には、目標高度から 50 フィート以内に入ったら、水平飛行を開始するようにしましょう。50 フィート手前で水平飛行を開始することで、目標高度に達しなかったり、目標高度を行き過ぎたりすることを防ぐことができます。高度 4,000 フィートで水平飛行に移行するには、高度計が 3,950 を示した時点で水平飛行に入ります。この時点で、機首を下げて水平直線飛行の姿勢にします。

パワーはフル スロットルの状態ですが、そのまま巡航速度まで航空機を加速させましょう (ただし、あえてのんびり飛行したい場合は別ですが)。次に、巡航設定である約 2,200 rpm までパワーを下げます。

対気速度が安定したら、トリムを調整して図 3-12 に示すような姿勢を維持します。

図 3-12

以上が、上昇と旋回を組み合わせた操縦です。これは必ずしも簡単な操縦ではありません。次のことを忘れないでください。ある姿勢から別の姿勢、たとえば水平直線飛行から上昇の姿勢に移るための秘訣は、ワルツを踊るときのように 3 ステップで行うことです。ワン、ツー、スリー、姿勢、パワー、トリム、です。まず、航空機を上昇させるために必要な姿勢に調整します (80 ノットでの上昇では 13 度の機首上げ姿勢です)。次に、パワーを調整します (レッスンの航空機の場合は、フル パワーで上昇します)。最後に、トリムを調整し、この姿勢を維持します。姿勢、パワー、トリムの 3 ステップは、ピッチを変更するときの秘訣です。

降下と旋回

現在、あなたは高度 4,000 フィートで飛行しているとしましょう。20 度バンクの左旋回をしながら、2,500 フィートまで降下したいとします。もう少しやりがいがあるようにするため、90 ノットで降下してみましょうか。では、その方法です。

まず、20 度バンクの左旋回に入ります。 続いて、パワーをアイドルまで下げます (アイドル状態とは、スロットルをいっぱいに引いて、エンジン出力をアイドルにした状態です)。

次に、90 ノットの対気速度になると思われる姿勢まで機首を下げます。ただし、パワーを下げると、機首は自然に下がるはずです。したがって、急降下を防ぐためにジョイスティックを少し手前に引くことになります。3 度の機首上げピッチで 80 ノットになるので、90 ノットにするには 1 度程度の機首上げピッチが適当でしょう。80 ノットのときよりも、やや機首が低い姿勢になります。旋回中なので、図 3-13 に示すように、水平儀のオレンジ色のボールをピッチの基準として使用することを忘れないでください。

図 3-13

2,550 フィート (2,500 フィートの 50 フィート手前) に達したら、航空機を水平直線飛行の姿勢にします。巡航設定である 2,300 rpm までパワーを上げます。対気速度が安定したらトリムを調整します。ここでも姿勢、パワー、トリムの順番です。

これで、水平直線飛行だけでなく、上昇、旋回、降下の方法も学びました。 そうです。あなたは操縦の基本を理解したのです。というわけで、ここから先は練習が必要です。 思う存分練習してください。今学習したことを練習するには、[このレッスンを開始する] をクリックしてください。

次のレッスンでは、着陸進入時の飛行速度に近い低速飛行について説明します。航空機を滑走路に下ろすための細々としたことを、すべて学習します。

今学習したことを練習するには、[このレッスンを開始する] をクリックしてください。

風車効果

子供が持っているおもちゃの風車は、空気を吹きかけると回転します。もうお気付きかもしれませんが、航空機のプロペラは大人用の大きな風車のようなものです。風車の効果によって、対気速度の変化に合わせてプロペラの回転数 (rpm) もあらかじめ設定されている値から変化してしまいます。たとえば、スロットルを新たな回転数に設定しても、対気速度の変化によって回転数は必ず変化します。風車が風に反応するように、プロペラも変化する対気速度に反応するからです。この原理を使って、プロペラを人為的に高速回転させることや、対気速度が安定するまでは最大速度では回転しないようにすることができます。この効果の影響で、最終的な設定値になるまで、回転数を 1、2 回設定し直さなければならない場合もよくあります。風車効果は、固定ピッチ プロペラ (レッスンで操縦する航空機に装備されているプロペラ) に関係しています。ピッチを変化させて特定の回転数を維持する定速プロペラについては、後で学習します。

このレッスンを開始する